精神科で関わる”虐待”

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精神科病院で働いていると虐待に関する患者さんと関わる機会も珍しくありません。

虐待に関するトラウマを抱えた患者さんと接する際には、無意識のうちに患者さんを傷つけてしまう可能性もあります。

この記事では、精神科の病院で出会う虐待について、それぞれの種類について実際にどのような例があるのか、どこに注意が必要なのか、を解説していきます。

そもそも虐待の定義について簡単に紹介します。

虐待とは、大きく 4つの種類に分けられます。

身体的虐待殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する など
性的虐待子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする など
ネグレクト家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない など
心理的虐待言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV)、きょうだいに虐待行為を行う など
(厚生労働省HP 児童虐待の定義と現状 より)

 また、これら 4つに加えて、高齢者に対して行われる経済的虐待などもあります。

ここからは、それぞれの虐待について、精神科の病棟で実際に出会う事例を踏まえて解説していきます。

臨床でみる身体的虐待

身体的虐待は、暴力として、実際に殴る蹴るなどの行動があります。おそらく、どんなものなのかをイメージしやすい内容なのではないかと思います。

ひどい場合では、怪我を負い身体的なケアが必要となります。創部の処置に加えて、身体的な虐待という辛い経験そのものへの精神的なケアも併せて行なうことが重要になります。

虐待を受けた方に関わる際に、「このくらい大丈夫だよね」「痛くないの?すごいじゃん!」という関わりをしてしまうと、虐待を受けた患者さんが、自分の本当の気持ちに向き合うことが出来なくなってしまいます。

「辛い時には辛いって言っていいよ」「そんな風にされたら嫌だよね?」と、辛い気持ちを表出する手助けをすることも、看護師の重要な役割です。

DV(家庭内暴力)について、「どこまでが教育でどこまでが暴力なのか、虐待なのか」ということをすごく丁寧に考える必要があります。教育とはいえ、子どもに手を出すことはもってのほかですが、この問題については、答えは人それぞれだと思うところも正直あります。

虐待を受けた子どもの特徴について、経験則で紹介すると、身体的な暴力を受けてきた子どもたちは、暴力に対する価値観が人と違うことがあります。

親から当然のように投げられたり、ストレスが溜まったら暴力で発散する場面を見ながら育ってきた子どもたちだからこそ、暴力を受けることに対して抵抗感が薄れてしまう人もいれば、自分自身のストレスが溜まった時に暴力を使って解消してもよいと思ってしまうことがあるのです。

そして、身体的虐待を受けていた子どもたちは、人の怒りや苛立ちに対するアンテナにすごく鋭いです。おそらく、自宅で父親や母親がイラッとした時に暴力に繋がっていたために、そのようなアンテナが敏感になったのではないでしょうか。

看護師が業務の中でイラッとしていたりする場面があると、生物的な本能や危険信号のアンテナで察知してしまうので、看護師自身のメンタルコントロールもとても重要です。

臨床でみる性的虐待

性的虐待での良くない事例では、被害に遭っている子が、被害意識を持たなくなってしまうことがあります。

 例えば、それが虐待であったとしても、被害を受けている側が快楽に染められてしまう場合や、当然のように生活の中で両親の性行為を目にしている場合など、それらの行為が虐待の被害であるという自覚がなくなってしまうのです。

そのような場合、患者さんに適切な羞恥心を育み、性教育を段階的に行うことも、病棟の看護師にとっては必要な役割になります。

特に、近親者の性行為を身近に目にして育ってきた男の子は、性的な逸脱を無意識のうちに(本人の悪気なく)行ってしまう場合もあるため、同性の看護師による継続的な関わりが重要です。

臨床でみるネグレクト

ネグレクト(育児放棄)の背景には、親に養育能力がない場合か、子育てに関心がない場合があります。また、親が精神疾患の患者さんという方も珍しくありませんでした。

親がうつ病で、子育てに手がまわらない。親が知的障がい者で、愛情は十分にあっても、上手く器用に子育てできないという場合などです。

育児放棄を受けた人は、心理的な安全性が保たれる場所がなかったため、安心できる環境を用意するということが大事になります。

病院では、「ここはあなたの居場所にしても大丈夫だよ」と伝えること、そしてそのように認識してもらえる支援的な関わり方を意識しています。 

また、育児放棄されていたために、お風呂の入り方や人への挨拶の仕方、ご飯の食べ方など、基本的な日常生活ができない人もいます。

お風呂でシャンプーの量はどれくらいつけて洗ったらいいのかわからず、自分で数えながら10プッシュする子もいました。爪はどれくらい伸びたら切るか、歯磨きはどうやるのかなど、日常の動作を丁寧に教えることが、その子の生活を作っていく支えとなるのです。

臨床でみる心理的虐待

心理的虐待と聞くと、いわゆる嫌がらせを想像しがちですが、それ以上にもっと残虐な心理的ダメージを与えることも含んでいます。

心理的虐待に関しては、それ単体で起こるものというよりも他の3つの虐待のうちのどれかと同時に発生することが多い傾向があります。

 そのため、患者さんが十分に治療に臨めるように周囲の環境を整えながら、精神的なケアをしていくことが重要になります。 

また、心理的虐待を受けた児童の患者さんに関しては、やっていいことと悪いことの境界があまり理解できない患者さんもいます。

嫌なことがあったら無視をしてしまう、自分の思うようにならなかったら暴言を吐くなどの行動も見受けられることがあるので、言っていいことといけないことなどを根気強く指導していく関わりが必要になる場合もあります。 

これって虐待かも?と思ったら

ここまで 虐待について紹介しましてきましたが、 実際に身近にいる人が虐待を受けているかもしれないと思ったら次のような対応があります。

  • 虐待通告
  • 相談窓口に相談する

虐待かもしれないケースに出会った時、 身近にいる人も助けたいという気持ちや、助けられなかったらどうしようという不安な気持ちを抱えることがあります。

まずは落ち着いて状況を整理してみることから始めてみましょう。

看護師として虐待の既往のある患者さんと出会う時には、どのような 背景があるのかを丁寧に情報収集して関わっていくことが重要になります。

参考文献

厚生労働省HP 児童虐待の定義と現状

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(最終閲覧2023.9.1)

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看護師S田さん

エビデンス中毒、いわゆる「エビ厨」を自称する京大出身の生意気な看護師。
「根拠に基づく看護(EBN)」の普及のためにNur-switchを設立し、論文レビュー記事から雑記ブログまで幅広く執筆。
臨床に立ちながら精力的に記事を更新中!

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