凝固・線溶系について

ICU

本日は〈凝固・線溶系〉について説明します。

ICUでは床上安静によりDVT発生リスクが高まるためヘパリンを使用する機会が多いですが、血液をサラサラにする薬は薬でも、種類によってモニタリングデータも異なります。

また、DICに至る患者さんも多く、凝固コントロールは非常に重要になってきます。

以下では、凝固線溶の流れ、凝固のメカニズム、主なモニタリング項目について説明していきます。

※以下は様々な参考書、勉強会資料、看護師向けサイトより私が情報をまとめたものです。そのため、あくまで参考程度にご覧ください。誤情報がある場合はコメント頂けると幸いです。

出血から血管形成まで

①何かのはずみで怪我をすると、血管が破れて出血する。

➁まず血管の破れに血液中の血小板が集まり、破断部分を塞ぐ

=一次止血。血小板血栓が作られる。細い血管の場合これで充分な止血効果が得られる。

※血小板と血管内皮はいずれも表面にマイナス電気を帯びており、他に引き合う原因がなければ反発しあう。これが血小板同士や血小板と血管内皮細胞の結合を妨げている。しかし、血管損傷により内皮下層にある結合組織が露出すると、血小板の粘着を阻止するものがなくなる。加えて、血漿中には結合組織と血小板結合の橋渡しをする物質(ヴォン・ヴィレブランド因子)が存在し、この因子により粘着が促進される。

③血小板血栓上で二次止血が始まる。凝固因子が血小板のまわりで次々に反応していき、トロンビンの作用でフィブリノゲンがフィブリンに変化し、フィブリンが網目状の膜を作り、血小板血栓を固める。

④これにより大きな血管の破れにも耐えられる血栓が出来る。この際、凝固制御因子であるアンチトロンビンがないと、フィブリン形成が促進される。

⑤二次止血が完了し、出血が治まると、その後は元の血管に戻す修復作用が働く。 血管は平べったい内皮細胞で覆われた血管である。血栓で塞がれた血管の破壊部分には、周辺の内皮細胞が増殖して、血栓を押しのけるようにして新しい内皮細胞で覆い、血管の修復がされる。

⑥血管の破れが元通りになると、血栓は血流の邪魔になるため、血栓を除去する必要が始まる。=線維素を溶解という意味で、線溶と呼ぶ。

⑦線溶を行うのはプラスミンという血液中の蛋白質。プラスミンがフィブリンの網目の膜を溶かす。フィブリン膜に囲まれた血小板などは、白血球の一種の単球・マクロファージが飲み込み、血栓は跡形もなくなる。このようにして血管が修復される。


凝固のメカニズム

二次止血には複雑な過程がある。止血の過程には、12種類の凝固因子が関係しており、発見順にローマ数字がふられている。この反応の機構は、滝が流れる様子に似ているため、カスケード理論と呼ばれている。

内因系は血管内の凝固因子で起こる凝固➡APTTで測定

外因系は破壊された組織からの成分(第Ⅲ因子)から始まる凝固➡PTで測定

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※濃いピンク矢印のルートが生理的な凝固のメインルートであると考えられている

PT測定

組織トロンボプラスチンが使用される≒組織因子とリン脂質からなる

この物質を血漿に加えれば外因系(および共通系)のルートによる凝固反応を起こすことが出来る。

APTT測定

部分トロンボプラスチンが使用される(組織トロンボプラスチンから組織因子を取り除いたもの)。リン脂質は、組織因子と結合して外因系凝固を起こす以外にも、内因系や共通系での反応にも広く関与。部分トロンボプラスチンを血漿に加え、さらに異物と接触させることで内因系・共通系の凝固を再現出来る。

肝機能障害によって凝固因子が欠乏し、凝固時間が延長する。外因系因子である第Ⅶ因子の半減期は時に短いため、PTの方が初期からの肝障害検出に適す。

ワーファリンは多くの凝固因子を肝臓で合成する際に必要なビタミンKを欠乏状態にすることで、不完全な凝固因子を作らし、凝固系の働きを低下させる。ビタミンKは、凝固因子の合成に使われた直後には構造変化してしまうが、肝臓には使い古されたビタミンKを再生する機構があり、これにより再び凝固因子の合成に関わる事が出来るようになる。ビタミンKに依存する凝固因子のほとんどは外因系・共通系に含まれるため、モニタリングの際はPT値を使用する。

ヘパリンはアンチトロンビンⅢと複合体を形成し、トロンビン(Ⅱa)や第Ⅹa因子を不活化する(aは活性化を意味する:Activated)。具体的には、Ⅱa(トロンビン)、Xa、Ⅶa、Ⅸa、Ⅺa、Ⅻaに結合することにより、その働きを失わせる。つまり、内因系の凝固因子に深く関わるため、ヘパリン投与時はAPTT値をモニタリングする。

侵襲と血栓形成

侵襲により細胞から血液中にサイトカインシグナルが出され、炎症免疫細胞が動員される。過剰な免疫反応によりサイトカインの産生が暴走すると、正常細胞も嵐のように攻撃されるサイトカインストームとなる。過剰にサイトカインが増殖すると、凝固因子が活性化され、全身に血栓が生じる。

線溶

・一次線溶

フィブリン形成を伴わない線溶反応。フィブリノゲンの分解によりFDPの生成のみ認められる

・二次線溶

安定化フィブリンの分解を目的とした線溶反応。プラスミンによる安定化フィブリンの分解によりD-dimerとFDPの生成が認められる。

※FDP:フィブリノゲンとフィブリンの分解産物の総称。DICの診断基準の1つ。

※Dダイマー:安定化フィブリンの分解産物。二次線溶でのみ増加するため、血栓の指標となる。

主な検査データ

APTT活性化トロンボプラスチン時間(30-40秒)
内因系にてフィブリンが生成されるまでの時間
PTプロトロンビン時間(10-14秒)外因系にてフィブリンが生成されるまでの時間
PT%PT活性値のこと(70-140%)
PT-INR検体凝固時間/対称凝固時間(0.9-1.1)
PCプロテインC肝臓で合成されるビタミンK依存性凝固阻止因子血中にある蛋白質であり、第Ⅷ因子と第Ⅴ因子を失活化して抑制する
TMトロンボモジュリン血管内皮細胞に存在するトロンビンと結合してトロンビン―トロンボモジュリン複合体を生成し、プロテインCを活性化させる
D-dimer安定化フィブリンがプラスミンに分解された際に生成されたもの(1.0μg/mL)
FDPフィブリンがプラスミンによって分解されたもの(0-10μg/mL)
PICプラスミンとα-2プラスミンインヒビターが結合したもの
PAI-1プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター血管内皮細胞で合成され、t-PAと結合しプラスミノゲンからプラスミンへの活性を失活させつ
t-PAプラスミノーゲンアクチベーター静脈の血管内皮細胞で合成され、プラスミノゲンを活性化する
ACT活性化凝固時間。主にトロンビン活性を反映。内因系凝固の接触相を活性化剤によって活性化して、フィブリン形成までに要する時間を、全血を用いて測定する。(90-130秒)透析や補助循環使用中のヘパリン至適量のモニタリング検査としても用いられる。簡便で測定結果がすぐにわかることがメリット。

まとめ

いかがでしょうか?凝固のメカニズムは複雑で苦手意識を持っている方も多くいらっしゃると思います。私も苦手です…。ぜひこの情報を参考にしてくださいね!

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※参照:日本血液製剤協会サイト、看護ルー、文献(血液凝固機序 ─血栓形成と細胞機能に及ぼす凝固因子の作用機序─)等

namiさん
namiさん

京都大学卒業後、とある大学病院のICUでコロナに追われて奮闘中。
臨床と研究をつなぐ人材を目指して、エビデンスに基づいた情報提供を心掛け、今後は大学院進学を視野に入れて日々学習しています。
元同級生のS田に声をかけられ、一緒にNurswitchに記事を投稿することに。
(S田によると、才色兼備の素敵な同期とのこと)

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