※この記事は、「早期開始が重要!ICUの栄養管理1」の続きになります。ぜひそちらもご覧下さい。
※以下は様々な参考書、勉強会資料、看護師向けサイトより私が情報をまとめたものです。そのため、あくまで参考程度にご覧ください。誤情報がある場合はコメント頂けると幸いです。
1)栄養素の基礎知識
①糖質
炭素、水素、酸素ので出来ている。炭水化物に多く含まれる基本的なエネルギー源。
糖質と食物繊維を総称して炭水化物。
全身細胞が働くためのエネルギー供給が役割。1gで4kcalのエネルギーが産生。
輸液に入っている糖質はたいていブドウ糖。
血糖値は血中のブドウ糖の濃度。
糖代謝の過程で二酸化炭素を産生させるため呼吸への影響も考慮する。
②脂質
1gで9kcalのエネルギー産生。
脂質は脂肪酸とアルコールで出来ている。脂肪酸とグリセリンが結合したものが脂肪。
脂質をエネルギー源として利用する場合、摂取した際の血糖値の上昇は糖質よりもゆるやか。
脂質は呼吸不全の際の栄養素としても有用➡呼吸商が関係➡二酸化炭素の産生が少ない
ステロイドホルモンや細胞膜の構成成分としても重要。
必須脂肪酸が欠如すると、皮膚が簡素する鱗屑状の皮膚炎、創傷治癒遅延、発育障害などの原因に
③蛋白質
1gで4kcalのエネルギー産生。エネルギー源としてよりも、血漿タンパク質や内臓、筋肉などの身体構成成
分として重要。蛋白質はアミノ酸から出来ている。
蛋白質が不足すると骨格筋が分解されてアミノ酸となり、エネルギー源や血漿タンパク質合成のために消費される。さらに不足すると低蛋白血症となり、免疫抗体などの蛋白質も低下して感染症にも罹患しやすくなる。
④ビタミン
生命維持の代謝に必須の酵素複合体。有機物の栄養素。
水溶性ビタミン:欠乏症に注意、B1とCが重要
B1:糖質の代謝の中心的役割。中枢神経や末梢神経を正常に保つ
体内蓄積量が少なく代謝も早い➡欠乏症になりにくい
グルコースからエネルギー産生する過程で、ピルビン酸からアセチルCOAに代謝するのに、B1が補酵素として必要→欠乏するとピルビン酸が乳酸に変換されるため、乳酸アシドーシスのリスク増す。
中枢神経障害;アルコール依存症に多いウェルニッケ脳症(運動失調・意識障害)
末梢神経障害;脚気(手足のしびれ、下肢の脱力と知覚鈍麻、歩行障害、膝蓋腱反射の消失・低下)
ビタミンB1製剤…アリナミンF
C:抗酸化物質。コラーゲン合成に必要であり、欠乏すると血管壁のコラーゲン合成障害で血管が破綻して、皮下・粘膜出血を生じる。血管以外にも支持組織が弱くなり、歯肉出血と腫脹、歯が抜ける、創傷治癒遅延、免疫低下などが起こる壊血病という病気に。また、鉄の吸収が悪くなり貧血の原因にもなる。
脂溶性ビタミン:過剰に注意
⑤ミネラル
2)エネルギー必要量と窒素
①基礎エネルギー消費量:20~30kcal/kg/日
1週間毎に体重などを定期的にモニタリングして必要エネルギー量を検討する
②窒素
エネルギー源として糖質と脂質だけを摂取していても骨格筋や内臓の筋肉、血漿タンパクなどの重要な身体
構成成分を合成することが出来ないため、蛋白質やアミノ酸から摂取する窒素が重要。
蛋白質やアミノ酸6.25gに窒素1gが含まれる。
輸血したAlbは自身のAlbではないため、代謝されてしまう。栄養障害を改善するためには、エネルギーと
窒素を十分に摂取し自身の蛋白質を合成するしかない。
③NPC/N比(非タンパクカロリー/窒素比)
非タンパクカロリー(糖質や脂質)(kcal)と窒素(蛋白質やアミノ酸に含まれる)(g)を摂取する比率のこと。
アミノ酸が蛋白質合成するために、どのくらいのエネルギーが必要なのかを表したもの。
タンパク合成に適した比率は150前後→窒素量の150倍のエネルギーがあれば蛋白合成が順調に進む。
侵襲時は蛋白の消費量が多いため、投与する窒素量を増やした方がよく、比率は低下する
慢性腎不全などで腎機能が低い場合は蛋白制限するため比率を高くする。
3)特別な栄養素と働き
①BCAA(分岐鎖アミノ酸)
ロイシン、イソロイシン、バリンの3種類。肝硬変では血中の芳香族アミノ酸の割合が増加してBCAAが低下する。芳香族アミノ酸が脳内に入ると、意識状態が悪化する。さらに肝硬変では肝臓でのアミノ酸の代謝能力が低下して、代謝産物であるアンモニアが処理出来ずに、高アンモニア血症から肝性脳症になってしまう。BCAAは筋肉でアンモニアを代謝することでも肝性脳症を改善すると言われている。
骨格筋にも豊富に存在。侵襲時には骨格筋が分解されてアミノ酸になって、エネルギー源や生命維持に必要な蛋白合成に利用される。このため、侵襲時にBCAAを投与することによって筋蛋白の分解を抑制する効果があるとされている。
特にロイシンは、筋蛋白の合成促進と分解抑制に働き、筋力トレーニングやエクササイズと併用することで、サルコペニア(加齢による骨格筋減少症)の予防効果があるとされている。
②グルタミン
生体内に最も多いアミノ酸。小腸粘膜のエネルギー源としての作用が注目。
小腸粘膜は数日間の絶食で容易に委縮するため、傷んだ腸粘膜の再生に有効な栄養素と言われている。
③アルギニン
核酸や一酸化窒素の前駆体。成長ホルモン分泌促進作用あり。NOは血管拡張作用があるため組織の血流がよくなる。これが栄養ドリンクに配合されている理由。
④n-3(ω3)系脂肪酸
魚油に多く含まれるEPA、DHA、シソに多いα―リノレン酸が代表的。
抗炎症作用と組織保護作用を持つ。
4)体液分布
①血管内外の水分移動
②浸透圧
体液の浸透圧=285±5mOsm/L。これと浸透圧の等しい輸液を等張液、低い輸液を低張液、高い輸液を高張液。
低張液:粒子を含まない蒸留水など。これ大量投与すると、赤血球の細胞膜を介して浸透圧で水が赤血球 内に充満し、溶血してしまう。=蒸留水単独の静脈内投与は禁止。
高張液:10%塩化ナトリウム液など。これを急速投与すると血中Na濃度が上昇し、細胞内水分が浸透圧で引き出され、細胞内脱水により浸透圧性脱水症候群が発生する。低Naの補正には注意。
等張液:生理食塩水…0.9%の塩化ナトリウム水溶液。
電解質組成が細胞外液に似ているため、細胞外液に分布する。
5%Glu液…電解質を含まないため、血管内や間質には長くとどまらず、細胞内にまで分布する
5)栄養状態の評価
①Alb
3.5g/dL以下は低下状態、3.0g/dL以下は栄養不良状態
脱水の時には血液濃縮し高値、溢水の時には血液希釈により低値となることあり
侵襲後は防御反応としてサイトカインが分泌されてCRPが上昇する一方、Albは下がるため注意
低腎機能でタンパク尿が出ている時、低肝機能でAlb合成が低下している時も低値となる
②急性相蛋白(RTP):rapid turn over protein
プレAlb、レチノール結合蛋白、トランスフェリンの3つのこと
Albよりも血中濃度が低く、半減期も短いため、鋭敏な指標となる。
肝臓での代謝や甲状腺機能の影響受けるため注意
6)栄養剤の種類と特徴
消化吸収能が良好であれば、生理的に近い半消化態栄養剤を使用。
半消化態栄養剤は全量の85%前後の水分量しかないため、心不全や腎不全患者を除き、脱水予防のために白湯を投与し水分量を調整する必要あり。
7)PEG
バンパー型:先端の破損が少なく、交換間隔4~6か月、抜くときに多少痛いかも
バルーン型:水のチェック必要、交換間隔1か月、抜きやすい
最初はチューブ型で増設して、交換の際にボタン型にすることが多い。
注入前には胃内の空気を抜き、GRVを確認➡嘔気嘔吐や漏れ予防
バンパー埋没症候群に注意:カテーテルを強く引っ張らない。太ってきて埋もれていないか
➡週に1回は外部ストッパーを回転させて、締めすぎていないか可動性を確認
栄養剤や垢などにより発赤やただれなどの皮膚炎を生じていないか、皮膚観察、スキンケアを実施
〈造設後の注入〉
・翌日…白湯100mlをゆっくり滴下注入し問題ないか
2日目には栄養剤を50ml/h程度で200mlほどゆっくり注入➡下痢、嘔吐、発熱なし➡漸増していく
・ただし、PEG造設前に経鼻経管栄養を維持料で行っていた場合はこのような慣らしは不要
・投与速度は100ml/h、1500kcal/日前後を投与する
8)経管栄養
・重症病態に対する治療を開始した後、可及的に24時間以内、遅くとも48時間以内に経腸栄養開始が推奨
・腸管が機能し使用可能であれば出来るだけ経管栄養を選択すべき
腸管機能の衰退防止と粘膜委縮を予防、腸管粘膜のバリア機構を保つことでバクテリアルトランスロケーションの予防に繋がる。また、腸管にはGALTと呼ばれるリンパ節群があり、IgA産生などの役割を担っていることから、全身性感染症に対する予防力を高めるとされる。
・ストレスホルモン分泌を減少させ、異化・炎症反応を抑制、静脈栄養より高血糖を生じにくい
・腸閉塞、難治性の嘔吐や下痢、腸管壊死などの禁忌がない限り経腸栄養の適応
・早期の経管栄養やGFO療法(グルタミン・ファイバー・オリゴ糖)が腸管粘膜委縮予防や腸管機能低下防に効果的。
※GFO:腸内細菌叢の正常化には良質な細菌増殖が必要。オリゴ糖などはその餌となる→腸管機能維持
腸管粘膜細胞のエネルギー基質としてグルタミンが利用
水溶性ファイバーは粘膜委縮の予防
<下痢>
原因:栄養剤の投与速度や浸透圧、侵襲に伴う血管透過性亢進による腸管浮腫、乳糖不耐症、抗生剤使用に伴う腸内細菌叢の乱れ、感染性腸炎、PPI使用
対策:遅い速度で開始して漸増させる、食物繊維の追加や半固形化を行う、消化態栄養剤や成分栄養剤に変更する
胃からの栄養剤の排出遅延には、モサプリドや六君子湯が効くことも
胃食道逆流は半固形化で改善することもあるが、原因が食道裂孔ヘルニアであればPEGに変更
中止:繰り返す嘔吐、消化管出血、消化管閉塞、感染による下痢、炎症性腸疾患の増悪、呼吸循環動態悪化
9)末梢静脈栄養
・消化器官が使えない状況が2週間以内である場合に適応
・腎機能が不明の場合はKを含まない「開始液(1号)」を投与
・脱水補正、循環血液量の補正には細胞外液補充輸液(乳酸リンゲル液など)を投与
➡クロールが生理食塩水よりも少なく、より血漿電解質に近似した電解質組成
出血時の循環血液量の補充、血圧の維持、手術・外傷・熱傷などの侵襲時の外液補充に使用される
・水分、電解質、ブドウ糖の補正には「維持液(3号)」を投与
イレウスの際に経鼻胃管やイレウス管から失われる消化液、術後のドレーンからの排液、下痢便などの電解
質組成は細胞外液に近似しているため、これらの喪失液の補充にも外液を使用する。
・絶食期間が長くなる場合には、アミノ酸配合剤(ビーフリードなど)や脂肪乳剤が有用
・ビタミンB1欠乏とならないように適宜補充
10)中心静脈栄養
・蛋白質、アミノ酸は体重1kgあたり1g/日が必要
・脂肪乳剤の投与速度は、体重(kg)あたり0.1g/h以下にする必要あり
11)カテーテル関連血流感染(CRBSI)
症状:高熱、刺入部発赤・腫脹・熱感
他の感染症の症状がなければまずCRBSIを疑い、カテーテル抜去、血培、カテ先培養提出
高カロリー輸液はカンジタなどの真菌も生えやすい。真菌検出➡真菌性眼内炎リスクあり眼科受診
・不要な輸液をしない、不要となった場合早急にカテ―テル抜去
・刺入部の頻回観察
・余計な混注をしない
・三方活栓を使用しない
・混注や側注の時は、刺入部を消毒
・定期的にルート交換
12)静脈栄養の合併症
・絶食下に長期高カロリー輸液を行うと肝臓に負担➡肝機能異常絶食➡胆汁うっ滞のリスクあり。過剰栄養投与を避け、少しでも腸を使う経腸栄養や経口摂取を併用することが予防となる
・高濃度の糖を投与すると、耐糖能が低下した人は高血糖のリスク
・長期飢餓患者に栄養投与すると、低P血症から心不全や意識障害を起こすリフィーディング症候群を発症することあり。ビタミンB1も欠乏すると、乳酸アシドーシスを生じるリスクあり。
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