“リストカット”と聞くと、あまり良い印象を受けない方が多いですよね。
でも、当事者はとても悩み、苦しんでいます。
この記事はリストカットに悩む本人ではなく、その現場に出会ったり、身近にリストカットをする方がいる人に向けて書いたものです。
正しい知識をもとに、どのように寄り添うことが良いのか、考えるお手伝いをさせてもらいます。
最後にまとめの画像も貼ってあるので、是非ご覧ください!
それではいきましょう!!
リストカットをきちんと知ろう

リストカットは文字通り「手首を切る」ことを意味します。
自傷行為の1つとして「自分で手首を切り、自身を傷つけること」という意味で使用されることが多く、切る場所によって似た表現が存在しています。
腕を切る行為はアームカット、ももやふくらはぎなどの脚を切る場合はレッグカット、首を切る行為はネックカットといい、特に首に関しては大きな血管や神経を傷つけてしまう可能性が高いの命に関わる場合もあります。
(この記事ではそれらの代表としてリストカットという表記で解説していきます。)
また、切るために使用する物としては、カッターやカミソリなどの刃物をはじめ、定規や爪など、人によって幅広い物を使用します。
ちなみに精神科病棟では危険なものを出来る限り排除しているため、プラスチック製品を自分で割って、破片を使用する場合などもあります。
「え??そんなもので切れるの??」と思うような創作武器も時折目にします。
多いのは文房具や化粧品関係のものが材料になっている場合です。

爪での自傷や、自分で道具を作り出しての自傷に関しては病院の管理下でも防ぐことが難しいケースもあるのです。
そんなリストカットを理解する上で最も重要なのが、リストカットは自傷行為の1つであることから「やっている人には意図がある」ということです。
そこにはどのような意図があるのでしょうか。
このページを最後まで読みながら考えてみてください。
なにより、接している方(これを読んでいるあなた)が「やめてほしい」「どうにか力になりたい」と思っているなら、まず、リストカット患者さんがどのような意図で行動に移しているのか、それを知ろうとすることが肝心なのです。
病気のこと、治療のこと
リストカットという行動そのものは、精神疾患の症状や病状の一部として現われることもあります。
特にうつ病、境界性パーソナリティー障害は精神疾患と自傷行為がかなり根深く関係しています。そこで、疾患の治療そのものが自傷の軽減に直接関係することも少なくありません。
症状という意味で、自傷と自殺企図、自傷の意味についてはテキストでは次のような内容が書かれています。
自傷行為は、「死への思いの強さ」「方法の違い」などから、精神医学上では一応、自殺企図とは分けて考えられています。 たしかに、自傷行為には「死ぬかどうか」よりも、それによって「生きていることを確認する」面のほうが、本人にとってはより大きな意味があることが少なくありません。
(『リストカット・自傷のことがよくわかる本』p27)
つまり、自傷行為そのものは本人にとって意味のある行動であるということが裏付けられています。
ここからは疾患についても少しだけ紹介します。
うつ病の症状の一部として希死念慮があり、リストカットをする場合
うつ病の診断がある、あるいは診断はないけれど該当している他の症状もある場合、うつ病への治療を優先的に行います。
治療は抗うつ薬を使用した薬剤調整が基本になり、短くても1ヶ月前後の入院で抗うつ薬を身体に馴染ませて治療を行い、回復してから生活に戻るという場合もあります。
抗うつ薬の導入では自殺に思い切るリスクをむしろ上げてしまう場合もあるため、入院が必要な場合が多いです。
リストカット以外のうつ病症状に心当たりがあれば、まずは受診をしてみることをおすすめします。
境界性パーソナリティー障害でリストカットをする場合
境界性パーソナリティー障害の診断基準にもある自傷としてリストカットを行っている場合、周囲の方は焦らずに長い向き合い方をしていく必要があります。
治療方針はそれぞれの患者さんの場合によりますが、抗不安薬などを使用しての薬物療法の他に、人とのコミュニケーションを上手く行っていくためのSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)や、自分の感情を上手くコントロールするためのDBT(弁証法的行動療法)といういくつかの方法を組み合わせて治療を行っていきます。
家族の方も、本人が“リストカットではなく言葉で気持ちを伝える”という練習が出来るよう、根気強く関わっていくことが重要になります。
いずれの場合も、専門家による判断が必要になるので、身近にリストカットが辞められない方が居る場合には受診を促してみると良いかもしれません。
現場に遭遇!こんな対応は要注意!
恋人がケンカの度にリストカットをする場合
娘が学校のストレスでリストカットをする場合
身近にいる人としては、「心配」「関係は壊したくない」「出来ればもうしないで欲しい」という感情を抱くこともありますよね。
そんな時に、どのような対応をすれば良いのか悩むことも多いかと思います。
自傷の現場に直面した時、やってはいけない対応3つを理解しておきましょう。
結論から言うと、
- リストカットを責めること
- リストカットの改善を焦ること
- リストカットをした時に優しくしすぎること
という3つをしてしまうのは要注意です。
良いか悪いかはさておき、自傷行為は意思表示の一つであることが多いです。
なので、伝え方が良いか悪いかで判断をする前に、“何を伝えたくてそうしたのか”を受け取ることが必要です。
メッセージを読まずに食べてしまっては、ヤギさんと一緒です。
ぼろぼろの手紙でも、殴り書きのメモでも、何を伝えようとしているかをくみ取ることが重要です。
しかし自傷での表出を繰り返すことは正解ではありません。
その表出だけを受け取っていては、当の本人も自傷以外のコミュニケーションを見失ってしまいます。
要求を伝えるために自傷をすることを繰り返していくと、本人も相手もお互いに疲弊していく関係になってしまいます。その一つが「振り回し」や「脅かし」というものです。
自傷行為を切り札にするのは、裏返すと、自傷行為以外の方法で人に働きかける方法がわからないということを物語っています。脅かしをなくすには、ふだんから本人との触れ合いを保ち、できることには積極的に協力する必要があります。
(『リストカット・自傷のことがよくわかる本』p45)
つまり、
- 言いたいことを伝えても聞いてくれない
- わかって欲しいのにわかってもらえない
- 気づいてほしい辛さがあるのに気づいてもらえない
こんな感情がある時に、自傷行為を用いた脅かしが発生します。
このように、精神的な症状や行動で自分にプラスに動かそうとする現象を疾病利得といいます。詳しくはこちらの記事で紹介しています↓
こんな風に対応を間違えると、自傷の内容がどんどんエスカレートしたり、自傷の頻度が増えてしまうことも珍しくありません。
ここからは、実際に精神科看護師として働いているS田が「どうすればいいのか」を解説していきます。
じゃあどうすれば?精神科ナースの対応例
ある日、ナースコールで「手首を切っちゃった」と患者さんからリストカットの報告を受けました。患者さんのもとに行くと、血に染まる腕と、折れた定規がありました。患者さんは涙ぐんでうつむいています。
こんな場面は、現場では度々目にする光景です。
そんな時にするのは・・・
落ち着いて淡々と処置(あまり会話をしすぎない)
コツとしては、「いま!集中してるから!」という雰囲気で黙々と作業する姿勢を見せることで、無理に会話で間を繋ごうとしないで済みます(笑)
「え~~、辛いときに寄り添うのが大切でしょ!!」と思いますよね?
でもここは心を鬼にして、発見した場面では冷静に、淡々と接する方がむしろ良いのです。
その理由として最後にお伝えする重要ポイントは、
会話や振り返りは場面を設定してから行う
です!
自傷についてどのような経緯で実行したのか
どのような苦難があったのか
どうすれば今後しないで済むのか
そのような会話は、場面を設定して行うことが重要になります。
- 自傷を発見したその時に
- 傷の処置をしながら
という場面では自傷について話さないように意識することがポイントです。
なぜなら、
「リスカをしたから親身になって喋ってくれる」と思われないように気をつけるのがキモだからです。
自傷をしたから会話をするのではなく、自傷以外の場面でのコミュニケーションを増やしていくことが、“急がば回れ”の攻略法です。
まとめ
リストカットについて、この記事で紹介した内容を実際の時系列に合わせてまとめると・・・

これらをきちんと理解したうえで、寄り添っていく姿勢を示していくことが重要になります。
「自傷は止めない方がいい」や「自傷の跡はどう消せばいい」というテーマがネット上では多い中で、精神科看護師だからこそ書ける「その場面での対応方法」という記事を書かせていただきました。
また、今回の記事の内容はこちらの本を参考に構成しました。
詳しく学んでみたい方は是非手に取ってみてください。
くれぐれも、患者さん本人には目につかないようにしてくださいね(笑)
記事の中で紹介していた疾病利得についてはこちら↓
Nur-switchでは他にも役立つ資格や知識について紹介しています。
是非ご覧ください!
最後まで読んでくださってありがとうございます!
それではまた!
【参考文献】
リストカット・自傷のことがよくわかる本 (監修)林直樹
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