せん妄入門―せん妄についてと診断基準―

看護師

私が勤務している病棟では、入院のストレス等からせん妄になる患者が一定数おられます。

同様に、せん妄の対応に困っている医療者・介護者は多いのではないでしょうか。

まずせん妄の対応をする前に、そもそもせん妄とは?どうやってせん妄と分かるの?その疑問に関してご説明していきたいと思います。

せん妄概論

せん妄とは

急性/一過性に経過し、軽度から中等度の意識レベルの低下を背景にして、様々な認知機能障害や精神症状を伴う症候群

(2.認知症とせん妄 日老医誌*1より)

せん妄と認知症の違い

うつ病や認知症と間違えられやすいせん妄ですが、可逆性であることが多いです。特に認知症とせん妄は症状が類似しており、鑑別の頻度が高くなるためそれぞれの特徴について以下に記します。

せん妄認知症
発症様式急激に発症徐々に発症
症状の経過の特徴・症状に日内変動がある・症状は可逆的で、数時間から数日で改善する症状はゆるやかに進行し、不可逆である
睡眠昼夜逆転がみられる疾患からの睡眠障害はみられない
認知機能注意力の低下、見当識障害、近時記憶障害がおこる初期では古い記憶が保たれ、軽度の認知症では見当識障害もみられないことがある。

(老年看護学テキスト*2より)

せん妄の種類/症状

せん妄といえば、症状として制止がきかない、暴れるなどのイメージがありますが過活動型、低活動型、混合型の3パターンあります。特に低活動型が見逃されやすいので注意しましょう。以下にそれぞれの症状について記載しています。

過活動型せん妄24時間以内に以下のうち2項目以上の症状(せん妄発症前より認める症状ではない)が認められた場合・運動活動性の量的増加・活動性の制御喪失・不穏・徘徊
低活動型せん妄24時間以内に以下のうち2項目以上の症状(せん妄発症前より認める症状ではない)が認められた場合(活動量の低下または行動速度の低下は必須)・活動量の低下・行動速度の低下・状況認識の低下・会話量の低下・会話速度の低下・無気力・覚醒の低下/引きこもり
混合型24時間以内に、過活動型ならびに低活動型両方の症状が認められた場合

(がん患者におけるせん妄ガイドライン 2019年版*3より)

せん妄の診断基準

せん妄かな?と疑う症例があれば、まずは客観的な指標でせん妄かどうか評価しましょう。

初期評価後に使用する診断基準の一つとしてDSM-5を説明します。

DSM-5Diagnostic and Statistical Manual of Disorders, 5th Edition

以下のAEをすべて満たすことでせん妄と診断される。

A注意の障害(すなわち、注意の方向づけ、集中、維持、転換する能力の低下)および意識の障害(環境に対する見当識の低下)
Bその障害は短期間のうちに出現し(通常数時間~数日)、もととなる注意および意識水準からの変化を示し、さらに1日の経過中で重症度が変動する傾向がある
Cさらに認知の障害を伴う(例:記憶欠損、失見当識、言語、視空間認知、知覚)
D基準AおよびCに示す障害は、他の既存の、確定した、または進行中の神経認知障害ではうまく説明されないし、昏睡のような覚醒水準の著しい低下という状況下で起こるものではない
E病歴、身体診察、臨床検査所見から、その障害が他の医学的疾患、物質中毒または離脱(すなわち乱用薬物や医薬品によるもの)、または毒物への曝露、または複数の病因による直接的な生理学的結果により引き起こされたという証拠がある

(せん妄:診断・予防・治療 神経治療*4より)

まとめ

実際私の病棟では、点滴ラインを抜針する、胃管を自己抜去する、点滴ラインをひきちぎる・かみちぎる、大声を出す、床上安静中の患者が起き上がるなど様々です。帰宅願望があり、制止がきかず病棟中を散歩するのは日常です。

治療継続のため身体拘束を行いますが患者当人は苦痛を感じます、そしてその苦痛がもとでせん妄の悪化を引き起こす可能性もあります。入院が長期化し、治療を受ける患者とって不利益になります。また、医療者の疲弊にもつながり双方にとってもよろしくありません。まずは、せん妄の症状を理解し、事前にせん妄を起こさないよう介入していくことが重要となります。次回、せん妄の要因と予防法についてご説明します。

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参考文献

*1長谷川典子 池田学 特集, 高齢者のせん妄 2.認知症とせん妄, 日老医誌2014:51:422-427 

ron05-04/ky570144409000051821 (jpn-geriat-soc.or.jp)

*2系統看護学講座 専門分野Ⅱ 老年看護学, 第8版 2015年, 第6章健康逸脱からの回復と終末期を支える看護の展開 C認知機能の障害に対する看護②せん妄 せん妄と認知症の鑑別, 医学書院, p.303

*3一般社団法人日本サイコオンコロジー学会 一般社団法人日本がんサポーティブケア学会編集, がん患者におけるせん妄ガイドライン 2019年版,  2せん妄の評価・分類,  金原出版株式会社, p.14

https://jpos-society.org/pdf/gl/delirium/all_jpos-guideline-delirium.pdf

*4布村明彦 玉置 寿男, 特集/メディカルスタッフレクチャー21 せん妄:診断・予防・治療, 神経治療34:393-395,2017 

ja (jst.go.jp)

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