論文放浪記 『精神科ナースのしんどいとき、辞めたいとき』

もう一歩先の精神科看護

こんにちは、精神科ナースのS田です。

看護師は精神労働と言われることを耳にしたことがあるかもしれません。

最近、僕自身も職場でのストレス過多で“やさぐれモード”なので、今回は精神科ナースがしんどいと感じたり、辞めたいと感じる時について医中誌Webを用いて論文をゆるっとレビューしていきたいと思います。

イントロ

精神科で働いていると患者さん関係での関わりでのストレスや、患者さんからの暴力や暴言に悩まされることが多いかと思います。

“看護師側も病みやすい”と言われる精神科で、看護師はどのような状況で精神的な負荷がかかっているのかを論文のデータベースである医中誌Webで検索してみます。

そしてエビデンスに基づいてゆるっと解説していきたいと思います!

方法

医学中央雑誌Webにて論文を検索(2021.12.16現在)

「精神看護/TH or 精神外科/TH or 精神疾患/TH or 病院精神科/TH or 精神症状/TH」

and「看護/TH or 看護師/TH or 看護師-患者関係/TH or 看護助手/TH or 男性看護職/TH」

and「退職/TH or 職業性ストレス/TH or ストレス/TH」

ヒット数がまだ多いので、症例報告・事例除く、原著論文、本文ありで絞りました。

232件でした。

論文放浪意図に一致する論文をゆるっと選定して抽出です。

ざっと目を通して、研究として妥当性が低いものははじいています。

結果

まず、やっぱり精神科の看護師さんは多くのストレスを抱えて過ごしているのかなという印象です。

というのも、精神科で大きなストレス(衝撃という意味で)は患者さんの自殺があります。

他の科で遭遇する患者さんの死とは異なり、患者さんが自ら命を終えるという出来事について、看護師は大きな精神的ストレスを受けます。患者さんの自殺既遂・未遂にと遭遇した看護師の9割は精神的衝撃をうけ、約8割は気分の落ち込みを経験しているようです。(坂口ら,2020)

このようなストレスは急性ストレス障害や外傷後ストレス障害のリスクとなるため、精神科の看護師へのメンタルケアというのはとても重要な課題になっています。同研究では、バーンアウトへの関連も示唆されているので、患者さんの自殺によって看護師がしんどい思いをしているのがわかります。

そして、精神科では患者さんからの暴言や暴力などの被害を受けることは往々にして発生しているようです。僕自身も、殴りかかられたり、暴言を吐かれたりと数々の経験をしてきました。

そんな時には、その場の対応としてその場を離れたり、暴言に至った患者さんの理解を試みるなどの対応があります。良い例かはさておき、患者さんに感情をぶつけるという関わりを行っている人もいるようです(泉ら,2015)。

他にもストレスの要因としては、患者さんとの関わりなどが考えられます。

患者さんの発言や行動に“巻き込まれる”ことによって看護師は辛くなったり、イライラしたりという感情を抱くことがあるようです(鈴木ら,2020)。看護師が患者さんに対して嫌悪感、しんどい気持ち、イライラ、面倒くさい、恐怖などの陰性感情を抱いているという研究もあります(伊達,2019)。

この伊達さんの研究では陰性感情を抱く場面についても書かれていますが、なかなか闇が深いのでここでの紹介は控えておきます(笑)

そんなストレスに囲まれた精神科だからこそ、精神科の看護師の仕事におけるストレスを測定するための尺度開発なんかも行われていて、「治療的関わり」「知識・技術不足」「患者の否定的態度」「多職種連携」の4つの概念から構成された精神科ケアストレス尺度というものなどがあります(石田ら,2018)。

健康診断で行われているストレスチェックとは別で、精神科用の尺度が普及する未来なんかも・・・あるのかないのか・・・

ストレスに対する対処としては、気分転換や共感、感情コントロールなどの情動中心の内容と、その後の対応への工夫や振り返りといった問題中心の対処に分類されます(泉ら,2015)。

アンガーマネジメントによる感情コントロールを追及している研究はやはりちらほら見受けられます。アンガーマネジメントについては語りはじめたらかなりの分量になるので、また別の記事で掘り下げていきたいと思います。

他にも精神科看護師のストレスを軽減するための試みとして、「笑い声を聞かせる」「呼吸法」「アロマテラピー」を活用した研究なんかも見かけましたが、これは介入対象が精神科であるとうスペシフィックさに欠けるので割愛します。ただ、読んでいてなかなか面白い内容のものも多いので、こーゆう論文はけっこう好きです(笑)

考察

精神科ならではのストレス要因として主にトピックとして扱われている内容は、

  • 自ら死を選ぶという自殺に関する内容
  • 精神症状などによる暴言や暴力(今回のレビュー対象では暴言や暴力は引き合いに出される程度で、メインで取り上げられている論文は少なかったので、今後また扱っていきます)
  • パーソナリティー障害などに多くみられる巻き込み行為や振り回しに関する内容

というノリです。

やはりストレスを抱えると健康に良くないので、適宜コーピングしていくことが望ましいですね。

泉らの分類によってコーピングは7種類に分けられてはいますが、ストレスを向き合った時の対応については一般的な防衛機制の内容の方に近いのではないかと思います。

振り返りに関しては、要するに自分に矢印を向けるか、相手や環境に矢印を向けるかの違いなんじゃないかと僕は考えています。自分に矢印を向けるのは負担になるし、精神的なストレスが大きいけれど、成長に繋がるのも事実です。

僕のなかでは、臨床でなかなかしんどいのはここだと思います。

みなさんも自分のストレスの対処方法を一度振り返ってみて、逃避なのか昇華なのかなどを把握してみてください。そうすれば他の対処方法を考えるきっかけになるかもしれません。

まとめ

いかがでしたか?

精神科の看護師ならではの環境や要因が存在するからこそ、それに合わせた対策や対応が必要になってくるのではないかと感じます。

この記事を読んで「私だけじゃないんだ」と少しでも救われる方がいたら幸いです。

今回が初めての新企画、論文放浪記でしたが、初回から内容がヘビーだったでしょうか・・・

これからも様々なテーマについてゆるっと解説していきたいと思います。

それではまた!

こちらもおすすめ

【参考書籍・サイト】

参考論文(紹介順)

坂口幸弘ら:精神科病院に勤務する看護師における患者の自殺に直面した経験とストレス反応、対処方略、複雑性悲嘆との関連,産業ストレス研究 (1340-7724)27巻2号 Page241-250(2020.04)

泉孝子ら:精神科看護師が言葉の暴力によって受けるストレスとコーピングに関する考察;日本看護学会論文集:ヘルスプロモーション(2188-6458)45号 Page215-218(2015.03)

伊達なつき:精神科ストレスケア病棟で働く看護師のストレス 患者に対して抱く陰性感情への対処;日本精神科看護学術集会誌62巻1号 Page74-75(2019.06)

鈴木将史ら:精神科病棟での「巻き込まれ」に関する看護師の体験,日本看護学会論文集:精神看護(1349-2985)50号 Page67-69(2020.04)

石田実知子ら:看護職者精神科ケアストレス尺度の開発,日本保健科学学会誌(1880-0211)20巻4号 Page158-166(2018.03)

看護師S田さん
看護師S田さん

京都大学卒業後、とある病院で看護師として勤務しながら、看護師の知識向上のため、「ナースイッチ」を創設。日々臨床と研究を両立しながら看護に向き合っています。

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