2023年12月13日、認知症治療薬のレカネマブが、保険適用になったと、正式に厚生労働省の関連期間から発表された。
今回は、その決定に対して、私の考える「誰のため?」「なんのため?」について、記事にしていく。
もちろん、考え方は様々で、賛否もあることだろう。
この記事に対しての賛否もある上で、ここではレカネマブの保険適用に対して懐疑的な視点から書き記していく。
認知症治療薬の「レカネマブ」とは
今回、日本での導入で新たに話題になっているのが、認知症治療薬のレカネマブである。聞き慣れない名前なのも当然で、エーザイ株式会社の開発した新薬なのだ。
その効果は、不治の病とされてきた認知症のうち、アルツハイマー型認知症の治療に役立つというもの。軽度認知障害と、軽度の認知症の進行を抑制するのである。
その発売は12月20日で、保険適用が決定した1週間後のことである。
さてさて、気になるのがそのお値段・・・
なんと、年間約300万円!!! (体重50kgの場合)
毎年、車買えるくらいの価格。
数年で中古物件くらいは買えてしまう価格なのだ。
「せっかくの認知症治療薬なのに、それじゃ買えないじゃないか!」
という方の耳に飛び込んだのが、今回の“保険適用”のニュースだ。
これは、軽度認知症で悩んでいる方にとっては朗報かもしれない。
しかし、日本の未来を潰しかねない大誤算だと、私は思っている。
ということで、ここからはその理由について解説していく。
そもそも治療は誰のため?
みなさんは、こんな通説を知っているだろうか。
「認知症の患者さんは、一般に幸福度が高い。」
これを聞くと「なんで?」と思う方も多いかと思います。
実際には、臨床で診る患者さんの多くに共通していることから、精神科医は口をそろえてそう話す。(例として、和田秀樹氏の記事も参考文献に添付しておく。)
僕が会ってきた医師たちも、そのように話す。
ではどうしてか。
認知症になると、痛みや嫌なことを、忘れることができるという説がある。以前とある書籍で目にしたが、「認知症は、死への恐怖に1枚ずつベールをかけている」という。
つまり「忘れてた、てへへ」「あら、困ったねぇ」と言いつつも、そのことそのものも忘れていくのだ。周囲が咎めない限り、本人はいたって“フツウ”なのである。
そうなると生じるのは、認知症の治療は誰のために行うものなのか、である。
私の見解として、本人のためじゃなくて家族のためであると思っている。
「認知症になると困るから」「介護が大変だから」「いつまでも元気でいたいから」など、周囲の関係者が思っているにすぎないのだ。
多くの認知症患者さんと、実際に直接接してみて感じたけれど、認知症患者さん本人型は、治療したいとは思っていない。物忘れと付き合って生きている。
とある認知症カフェでは、初めての人にも自己紹介をしない。なぜなら、名前を覚えられないからだ。それでも、日常の何気ない会話をする中で、なんとなく会話の中盤で、なんと呼べばいいかを尋ねる。
認知症の診断と進行を一番恐れているのは家族なのだ。
そうなると、認知症治療は誰のためなのか、改めて考える必要がありそうだ。
保険適用はなんのため?
さて、ここからは、さらに踏み込んで、おカネの話をしていこう。
冒頭で述べた通り、レカネマブの価格は年間で約300万円。これは、1人の軽度認知症患者が、1年間「症状の進行を抑制する」ために支払う金額である。
記憶がよみがえるわけではなく、認知症が治ることを約束するわけではない。
少々残酷な言い方をすると、認知症の進行を抑制して得られる1年間の認知機能に、300万円の価値があるのかどうかなのだ。
国税庁の民間給与実態統計調査(令和3年9月)によると、全世代の年間給与所得は433万円とのこと。なんやかんや差し引かれても、年間収入を全額投じて、もやしを食べながら記憶を維持したいという方はほとんどいないだろう。(平均から換算すると、もやしすら食べられない生活が待っている)
「自分の年収を、全額払って、1年間だけ、記憶を手放すのを後ろ倒しにする」
レカネマブでの治療が抱える大きな課題は、ここにある。
そこで動いたのが厚生労働省であり、保険適用にすることで、税金で賄おうというのだ。
年収丸々はたいてもトントンの費用を、誰から徴収するのか、言うまでもない。
さらに、あろうことか、高額医療費制度を使用すれば、月数万の上限金額の範囲の負担に限られるのである。300万円かかる1年間の認知機能の先延ばしが、実質月に数万で済むというのだ。
ちなみに、この薬を保険適用にすることを決定したであろう世代の人が、今まさに、この薬の使用を順番待ちしているのかは、僕にはわからない。
自費診療という選択はなかったのか?
では、「年間300万円を自費診療にしてしまえば良いのでは」と考えてしまうのが、ここまでの流れ。
そこで他の自費診療の治療を見てみよう。
歯科矯正
おそらく最も身近であろう自費診療。相場は30万円程度~150万円程度と言われている。
機能的な改善目的や、見た目に関する目的を兼ねているおり、幼い時に親のお金で実施する方も少なくない。(もちろん成人してから自分で支払うことも多い。)
美容整形
医療行為の中でも、自費診療の最たる例。自分の容姿に対して、課金する医療である。
コンプレックスや、より美しくいたいという願望から、高額な施術を受ける。
(一部、眼瞼下垂などの保険適用施術もある)
さて、これらをふまえると、今回のレカネマブの自費診療の妥当性が見えてくるのではないか。
歯を綺麗に整えたい、見た目を綺麗に整えたい、認知機能を綺麗に保ちたい。完全に同列ではないだろうか。
保険適用であれば「療養の給付」という公費が使われるから言うが、みんなのお金を出してまで認知機能を維持するかどうか、その人の記憶の価値は誰が決めるのであろうか。
最後に、
そもそも、1年単位の認知機能を買うべき人は、その費用を自分で支払うことができる人なのではないだろうか。
参考サイト
エーザイ株式会社 「「レケンビ®点滴静注」(一般名:レカネマブ)日本においてアルツハイマー病治療剤として12月20日に新発売」
(最終閲覧:23/12/13)
日本経済新聞HP 「認知症薬「レカネマブ」保険適用、年298万円見込み経済」

(最終閲覧:23/12/13)
日経ビジネス 「「知れば怖くない認知症、本人は幸せなことも」」

(最終閲覧:23/12/13)
国税庁 『民間給与実態統計調査』(令和3年9月)
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