“思いやり”を伝える技術【ユマニチュード入門】

看護師

ケアを受け入れてくれない

関わることで機嫌が悪くなる

気持ちがすれ違っている感じがする

認知機能が低下した方や高齢者の方と接する時、上手くいかずに苦労をしたことはありませんか。

「あなたのためにやっているのに」とモヤモヤしてしまう方のために、今回は“思いやり”を伝える技術であるユマニチュードという技法を紹介します。

聞き慣れないカタカナ言葉ですが、難しいことはなにもありません。

自分はどれが出来ていて、どれを意識すればもっと良くなるのか参考にしてみてください!

ユマニチュードとは

ユマニチュードとは、フランスの二人の体育学の専門家イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが開発したケアの技法です。

「自分が正しいと思っていることと、自分が実際に行なっていることを一致させるための手段」として技術を用いるのだ、と二人は考え、その哲学を「ユマニチュード」と名付けました。ユマニチュードとは「人間らしさを取り戻す」という意味をもつフランス語の造語です。

(引用元:日本ユマニチュード学会HP)

端的に言えば、“あなたを大切に思っていることを相手に分かるように伝える技術”です。

記事の冒頭で紹介したような

「あなたのためにやっているのに」

「自分はこうしたら良いと思うのに」

「もっとこうして欲しいのに」

というモヤモヤやイライラを抱えている方は多いです。

看護の臨床だけでなく、介護施設や自宅での親の介護などで、上手く気持ちが通じない場面ってかなりありますよね。

ユマニチュードはそんな方に、ケアを行うことを正しく伝え、実践することに役立ちます。

4つのワザを5つの場面で

ユマニチュードは、4つの技術を大切にしています。

それが、①見ること②話すこと③触れること④立つことです。

その4つの技術を振り返る上で、対象者さんと関わる場面を大きく5つに分けて、具体的に振り返ることで“思いやり”を伝えられるようにしようという内容になっています。

まず、ユマニチュードの技術には4つの柱があります。

①見る

私たちが仕事で患者さんを見る時、口腔ケアなら口腔付近、排泄処理なら陰部付近など、仕事の対象部位のみを見てしまいがちではありませんか。

まずは対象者と同じ高さで、近くで、正面から目を合わせましょう。ベッドサイドでのケアだと見下ろしてしまいがちですが、威圧的にうつってしまうかもしれません。

相手にケアを行う自分を認識してもらうことが第一歩です。

②話す

目を合わせたら次は話します。この時、「これから○○をします」「すぐ終わります」などの声かけをしている方は多いと思いますが、認知機能の低下した方からすると、支配的で命令されているように捉えられかねません。

つまり、声かけをしたつもりでも、相手からすると驚き、不快な気持ちになっているのかもしれません。まずは穏やかに優しく挨拶から始め、ケアを行うことをゆっくりしっかり伝えてみましょう。

③触れる

触れられるというのは本来強い刺激を与える行為です。触れ方で相手に不快感や恐怖を与えないためには

  • 広い面積で触れる
  • つかまない
  • ゆっくりと手を動かす
  • できるだけ鈍感な場所(背中、肩、ふくらはぎなど)から触れ始め、次第により敏感な場所(手、顔など)に進む

と良いです。具体的な方法は後述します。

④立つ

立つことによって体の様々な生理機能が十分に働くようにできています。また、立つことは「人間らしさ」の表出の一つです。

一日の中でできるだけ立つ時間を増やせるようにリハビリやケアに取り入れてみましょう。

ユマニチュードの実践例

次に、対象者さんと関わる場面を切り取る歳に、ユマニチュードの5つのステップに分けています。

5つのステップとは

  1. 出会いの準備(自分の来訪を告げ、相手の領域に入って良いと許可を得る)
  2. ケアの準備(ケアの合意を得る)
  3. 知覚の連結(いわゆるケア)
  4. 感情の固定(ケアの後でともに良い時間を過ごしたことを振り返る)
  5. 再会の約束(次のケアを受け入れてもらうための準備)

です。

ここから具体的な実践例を紹介するので、イメージを深めていきましょう。

①出会いの準備

まず部屋に入る時、近づく時のポイントは、「いきなり入らず、必ずノックや呼びかけをしてから入る」ことです。

忙しさのあまりいきなり入ってしまっていませんか。ベッドで寝たきりの方や、耳が遠い方などには、ベッド柵をノックして近づいても良いでしょう。

部屋以外の場所であれば、いきなりぐいっと近づかず、距離を取りながら視界に入る範囲から、声をかけながらゆっくり近づきましょう。

②ケアの準備

対象者に自分の存在を知覚してもらったら、目の高さを合わせてゆっくりと話します。

この時、いきなりケアの話はせずに相手の身体、部屋など全体をしっかり見てから相手のことを思いやっていることを伝えます。

難しいですが、「おはようございます。よく眠れましたか。顔色が良いですね。」など気づいたことを伝えてみましょう。

この段階でも覚醒があまり良くない方の場合は、背中や肩に触れながら話しても良いと思います。

③知覚の連結

対象者に触れるときは前述した触れるときのポイントを意識します。具体的に、

  • 手のひらや指先で触れるのではなく、腕全体で大きく身体に触れる。
  • 腕や足を持ち上げるときは、上から持つ(つかむ)のではなく、下から手を添えて持ち上げるようにする。

などが有効です。

また、ケアをしながら実況し、ポジティブな内容でフィードバックを行いましょう。

たとえば、「今腕を拭いています。あったかいですね。気持ちいいですね。」など、ケアを行いながら話しかけるとよいでしょう。無言でケアをされていると不安や恐怖を与えかねませんし、誰だって和やかな雰囲気でケアをされる方が良いですよね。

そして、もし対象者の全身状態的に可能であれば、ベッドから体を起こし、立位や端座位で足の裏を地面につけた状態でのケアを行ってみてください。

足の裏に刺激が与えられることで覚醒が促されたり、腹筋、背筋を少しでも使う時間を設けることは日常生活動作やケアの中でもリハビリにもつながります。

介護や看護の現場では特に、床上で更衣や清拭を行った方が短時間で済む場合が多く、忙しいとつい床上ですべて行ってしまいがちですが、できそうであればやってみてください。

④感情の固定

③の中でも行っていましたが、ケアが終わった後も「気持ちよかったですね」「綺麗になりました」などといったポジティブなフィードバックをしてみましょう。

ケアの時間が苦痛なものではなく、良い時間であったという印象を持ってもらうことにつながります。

⑤再会の約束

またケアをしにくること、様子を見に来ることを、あなたを大切に思っているということが伝わるように目を見て穏やかに伝えましょう。

まとめ

“思いやり”を伝えるために、どんな風に表現すればお互いが心地よく過ごせるのか。

そんなことを考えるための技術を紹介してみました。

実際には大幅に時間を要する内容ではなく、ささやかな気遣いの集まりと言えるでしょう。対象者に安心感を与えることができれば、ケアを拒否することが少なくなり、ケアに必要な人手や時間が減るかもしれません。そうなれば看護の質は上がります。

みなさんの現場で、ユマニチュードがより良い看護のお役に立てればと思います。

【参考文献】

日本ユマニチュード学会「ユマニチュードとは」

https://jhuma.org/humanitude/

(参照2022/12/19)

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